東京地方裁判所 事件番号不詳〔2〕 判決
本店
東京都中央区日本橋堀留町二丁目五番地
小久保産業株式会社
右代表者
小久保儀三郎
本籍並住居
東京都中野区野方町二丁目千百六十五番地
会社員
小久保儀三郎
当四十八年
右者等に対する法人税法並所得税法違反被告事件について左の通り判決する
主文
被告会社を
一、法人税法違反の内
第一期のほ脱罪につき罰金六千万円に
第二期中間のほ脱罪につき罰金三千五百万円に
第二期確定の逋脱罪につき罰金二千万円に
二、所得税法違反の内
昭和二十二年十二月の不徴収罪につき罰金八十万円に同二十三年一月の不徴収罪につき罰金十五万円に
同年二月の不徴収罪につき罰金二十万円に
同年三月の不徴収罪につき罰金二十万円に
同年四月の不徴収罪につき罰金二十万円に
同年五月の不徴収罪につき罰金二十万円に
同年六月の不徴収罪につき罰金八十万円に
夫々処する。
被告人を懲役一年に処する。
訴訟費用は被告会社と被告人の連帯負担とする。
理由
(犯罪事実)
被告人は昭和二十一年六月六日株式会社東京物産商社の商号で設立せられ同二十二年九月十八日現商号に変更したもので、繊維製品卸売業等を営業の目的とし、被告人は右創立当時より右会社の代表者にして会社事業の一切を統轄して来たものであるが
第一、被告人は被告会社の問屋営業を経営する上において向後商品の払底を来すは必然にしてその傘下に生産工場を獲得しておかなければ経営難に陥るであろうことを危惧し、その傘下に生産工場を設立することを企て、昭和二十一年六月頃当時被告会社の監査役であつた木村国治に図り、右工場設備資金捻出の為法人税の課税対象とならない別口資産を作り、これを右資金に充てることとし、その別口資産は被告会社の取引の内法定価格超過売上額即闇所得、いわゆる出目製品又は進駐軍に納入すべきものの内不合格品の売上額を以てし、その伝票上の仕訳は業務部に為さしめ、別口資産として仕訳されたものは福田九三男(当時経理課長で後社長室附を経て監査課長となつた)の手許に廻付蓄積せしめることとなし、その頃当時の被告会社重役であつた吉村伝之丞、橋本庄右衛門、大塚隆司等にその諒解を得た上被告人自ら福田九三男にその旨命じたので、爾後は業務部担当の橋本庄右衛門の許で通常資産となるものをA、別口資産となるものをBとして二種の伝票仕訳を為し、Bの入金伝票は福田九三男の許に廻付されB資産として処理されていたもの(尢も昭和二十二年八月一日より被告会社専務取締役吉村伝之丞の許でその一部を営業資金として留保し福田九三男の許に全額を廻付しなかつた)である。しかして前記B資産はそれを設けた趣旨に従い、被告会社の法人税法所定の所得申告をなす時にはこれを計上しないこととし、被告人はその旨を福田九三男に命じ同人の計算の許に
(一)昭和二十一年六月六日より同二十二年五月三十一日迄の第一期事業年度の所得申告を為すに際し普通所得は五千二十六万四千四百十七円、超過所得は五千三万千八十四円であつたに拘らず、昭和二十二年九月二十日中野税務署に対し普通所得を六百二十二万六千百三十一円、超過所得を五百九十九万二千七百九十八円と虚偽の所得申告を為しその頃法人税として三百九十八万八千六百五十一円九十銭(誤算にて正規の税額は三百九十一万八千百五十二円である)を納付し以つて正規の法人税三千二百五十四万三千五百三十七円の内二千八百五十五万四千八百八十六円をほ脱した。
(二)昭和二十二年六月一日より同年十一月三十日迄の第二期事業年度の中間所得申告を為すに際し普通所得は三千四百二十八万四千七百八十五円、超過所得は三千三百八十二万六千四百五十二円であつたのに拘らず、同二十三年二月二十六日中野税務署に対し普通所得を八百十七万七千四百七十五円、超過所得を七百六十二万三千百二円と虚偽の所得申告を為しその頃法人税として五百一万四百五十三円六十銭を納付し、以つて正規の法人税二千二百三万三千二十七円の内千七百二万二千五百七十三円四十銭を逋脱した
(三)同二十二年六月一日より同二十三年五月三十一日迄の第二期事業年度の確定所得申告を為すに際し確定決算による普通所得は六千五十一万八千三十一円超過所得は五千七百六十四万三千三十二円であつたのに拘らず、同二十三年八月十日中野税務署に対し普通所得を千三百二十万千円、超過所得を九百七十四万九千七百五十七円としその法人税は六百五万二千六百十四円七十銭であると虚偽の所得申告を為し以つて正規の法人税千二十四万五千六百四十円三十銭(総法人税三千二百二十七万八千六百六十七円三十銭より(二)の正規の法人税額を控除した額)の内九百二十万三千四百七十九円二十銭(総ほ脱税額二千六百二十二万六千五十二円六十銭より(二)のほ脱額を控除した額)を逋脱した
第二、被告人は被告会社の重役、社員に対する給料、賞与等の給与をABの二口とし、B給与については所得税の源泉徴収をせざることとして、被告会社の支出を増加せずして実質給与額の増額を企て、昭和二十二年一月頃木村国治、吉村伝之丞と図り、福田九三男に命じその事務を執らしめて
(一)昭和二十二年十二月中二百三十九万八千六百五十四円を支給するに際し正規の所得税六十二万二百四十五円三十銭の内四十四万五千六百八十三円九十銭の源泉徴収をしなかつた
(二)同二十三年一月中六十八万四千二百三十六円九十八銭を支給するに際し正規の所得税十六万二千六十一円の内七万九千四百八十五円三十銭の源泉徴収をしなかつた
(三)同年二月中七十一万七千八百六十三円を支給するに際し正規の所得税十六万九千二百六十四円の内八万七千五百九十円九十銭の源泉徴収をしなかつた
(四)同年三月中七十五万九千八百八十円を支給するに際し正規の所得税十七万五千二百九十八円の内八万六千四百二十三円四十銭の源泉徴収をしなかつた
(五)同年四月中七十八万五千二百八十九円を支給するに際し正規の所得税十八万二千三百七十七円の内九万千七百四十六円二十銭の源泉徴収をしなかつた
(六)同年五月中七十八万四千七百八十一円を支給するに際し正規の所得税十八万千四百三十円の内九万千二百二十四円六十銭の源泉徴収をしなかつた
(七)同年六月中二百十三万三千七百四円を支給するに際し、正規の所得税五十一万九千八百三十円七十銭の内三十八万千四百六十三円七十銭の源泉徴収をしなかつた
ものである。
(予備的訴因を採用した理由)
本件公訴事実の内法人税ほ脱罪の訴因中被告会社の第二期事業年度の分は「被告会社の昭和二十二年六月一日より同二十三年五月三十一日迄の第二期事業年度の普通所得は六千五十一万八千三十一円、超過所得は五千七百六十四万三千三十二円であつたに拘らず同二十三年八月十日頃中野税務署に対し普通所得を千三百二十万千円、超過所得を九百七十四万九千七百五十六円と虚偽申告を為し法人税六百五万二千六百十四円七十銭を納付し以て正規の法人税三千二百二十七万八千六百六十七円三十銭の内二千六百二十二万六千五十二円六十銭をほ脱した」とし、予備的訴因を判示第一の(二)(三)の如く為した。
依つて按ずるに法人税法は元法人の定めた事業年度に従いその事業年度終了後の確定決算によつて納税せしめて来たのであるが、昭和二十二年法律第二十八号でこれを改正しその第二十一条で法定事業年度が六カ月を超える時は法人税法の適用上法定事業年度開始の日より六カ月間を一事業年度と看做すと定め、いわゆる中間申告により納税を為さしめることとし、徴税上の擬制事業年度を規定したのである。しかしてこの中間申告による納税義務の性質については明確に規定せられていないので、理論的実際にこれを検討すべきであるが、その性質を想定すれば次の三説となる。即ち一はこの申告は概算申告であり所得税法にいわゆる予定申告と同一で、その納税義務は確定的でないとするもので、その論拠は法人税法(以下単に法と称す)第二十一条第二項で法第十九条第二項を準用し申告に際し概算による計算書の提出を求めていること、法第二十二条第一項の確定申告の際法定事業年度全体についての決算に基いて所得申告を為すべきことである。二は法定事業年度の確定決算を解除条件とし、その納税義務は確定決算において欠損となれば消滅するとなすもので、その論拠は右概算による計算書を提出すること、中間申告により納税した場合において法第二十二条の確定決算の際利益皆無又は損失となつた時は法第二十六条第一項第五号、国税徴収法第三十一条の五、同条の六(改正前の第四条の五)によつて既納税金を還付すべきことである。三は確定申告のそれと同一性質のものとするもので、その論拠は法第二十六条第一項第四号により中間申告をすれば直ちに納税すべく若し怠れば法第二十八条、国税徴収法第九条により督促ならびに滞納処分を受くべきこと、中間申告を遅滞し又は怠れば法第二十六条第二項、第三十条、第三十三条、第四十二条、第四十三条により加算税、追徴税を課せられることである。
右一の論拠である概算による計算は法第二十二条の確定申告の場合にも法第十九条を準用して居るので同様であるが、これは法人の決算を事業年度の中間ですることが極めて困難であろうとの見地より概算としたのであつて、その当時において確定して居り、計上し得るものは凡て計上して課税標準を算出すべきことは勿論である。このことは法第十九条第二項で計算の明細書や必要書類の添付を求めて居る点からも首肯し得る、又所得税法所定の予定申告は将来の所得に関するものであるが、中間申告は過去の所得に関するのでその本質を異にして居る。法第二十二条第一項で法定事業年度の確定申告は全事業年度を通じての決算を為すべきものとして居るので、中間申告の独立性を否定されるようであるが、これは法第二十一条で概算の計算による所得申告を為さしめた為、凡ての課税標準を含める意味(理論的には法第二十五条により中間の修正申告を為すべきであろう)において理解せらるべきである。二の論拠とする確定決算において利益皆無又は損失となつた時は既納税金を還付すべしとの点は疑問なきを得ない。法第二十六条第一項第五号は確定申告による税額より中間申告による税額を控除すべきこととして居るが、これは法第二十二条を受けた規定であり、確定決算には中間決算の際の課税標準が包含されて居る為めこれを控除する意味においてのもので、このことからしては直ちに既納税金の還付を為すべしとの結論は出ないのである。又国税徴収法第三十一条の五、同条の六(改正前の第四条の五)は過誤納税金の充当等に関する規定であるが、既納税金が過誤納であるかどうかは申告の基礎である決算期当時の課税標準によつて決せられるべきものでその後の課税標準を増減して決定することは許さるべきでない。若しこのことが許されるとすれば、確定決算において利益が増加すれば法第二十五条により中間申告の修正を認むべきこととなり確定申告はその存在価値を失うことになる。即ちこの論は中間納税が確定納税の仮払又は内払であることを前提(法第二十六条第一項第五号には納付したる法人税とせず納付すべき法人税として明らかに内払でないことを示して居る)としてのみ容認し得るところであつて採用し難い。のみならず所得税法第四十条の如き規定が為されなかつた点よりすれば却つて還付すべからずとの結論を採用すべきものの如くである。斯様に解する時は三の説を採る外ない様であるが、この立場をとるとしても次の難点がある。即ち第二十二条第一項は確定決算には中間決算に計上したものも包含せしめるので、法第二十六条第一項第五号によつて中間申告による税額を控除しても下半期の所得については法第十三条による資本の控除なくして超過所得が算出されることとなり且つ法第十七条により超過所得額に対する税額は中間申告のそれの上に逓増されるので不当である。又法第二十九条第二項によれば中間申告における課税標準の更正は「することができる」とあり若し更正しなければ法第三十三条の適用上その更正によつて追加徴収すべき税額の徴収は不能となるから、法第二十九条が確定申告のみを必要的更正としたのは、中間申告の独立性を否定したと解せられることである。(法第三十条は不申告の際は中間確定の別なく必要的課税標準の決定として居るので、法第二十九条第二項は本来必要的更正とすべきものであつたと思われる)
斯様に何れの立場をも決定的にこれを採るべしと為し得ないのであるから、法第二十一条の制定理由を検討して最も妥当と思われる解釈を為す外はない。この改正法は昭和二十二年四月一日より施行されたのであるが、当時の我国経済情勢はインフレの進が甚だしく、営業者の事業所得も価格差益金が大部分を占めて居る情勢であつたので、国家財政の立場よりは早期の税収入は絶対に必要であり、インフレ抑制の為めには通貨の早期吸収を為すべく又租税の完納を期する為め納税者の一括納税の苦痛を緩和すること(所得税法第三十条の予定申告納税、第三十八条の源泉徴収に想到すべきである)等の考慮よりして、法人の定めた事業年度を法人税法の適用上即ち徴税上二分したものと解するのが妥当である。従つて中間申告による納税義務は法第二十一条によつて新しく認められた独立の義務と解すべきで、法人が自己の営業上設けた事業年度は徴税の目的上否定せられたのである。斯く解する時は確定決算において中間決算の税額以下の税額となる場合は法人に対し酷の様であるが、法人は何時でも事業年度を法第二十一条の如く為し得るし、中間決算において損失となつていた場合は確定決算に繰入れる為め後期の利益で補填せらるることの利益もあり、法第二十一条第二十二条によつて徴税上の必要と営業上の利益との調和が為されて居ると解し得る、従つて法第四十八条の適用上中間申告の場合は確定申告の場合と同様にほ脱犯の対象になると解すべきであるから、中間申告におけるほ脱犯は独立して成立し確定申告におけるそれは確定決算によるほ脱額より中間決算によるほ脱額を控除した額についてのみ成立するものである。かくてはじめて法人税法に所得税法第七十条の如き罰則を設けなかつたことが理解出来るのである。
仍つて本件法人税法違反罪については第二期事業年度に関し予備的訴因を採用したのである。
弁護人は検察官の予備的訴因の追加は追起訴であつて不当であると主張するが、刑事訴訟法第三百十二条によれば公訴事実の同一性を害しない限り訴因の変更は適法に為されるのである。本件公訴事実中第二期事業年度の法人税ほ脱罪の訴因は被告会社がその第二期事業年度において二千六百二十二万六千五十二円六十銭をほ脱したのであるが、中間申告による納税義務が独立のものであるならばほ脱事実を中間申告において千七百二万二千五百七十三円、確定申告において九百二十万三千四百七十九円六十銭と予備的に変更すると言うのであつて、これは同法第二百五十六条第四項によつて予備的又は択一的に主張し得る処であり公訴事実自体の同一性は完全に維持せられて居るのである。しかもその審理においては確定申告のほ脱を明確ならしめる為めには中間申告における税額を明確(これには必然にその課税標準の確定を要する)ならしめねばならぬので、審理自体もその全事実に亘つて行わるべきものであるから訴因の予備的変更によつて被告人の防禦も実質的な不利益を受けていないのである。
(証拠)
右判示事実を認めた証拠は次の通りである。
一、被告会社代表者兼被告人小久保儀三郎の供述
一、証人福田九三男、木村国治、吉村伝之丞、大谷富次の供述
一、昭和二十四年一月十八日、十九日附福田九三男の検察官に対する供述調書
一、同月十九日附木村国治の同上調書
一、同日附小久保儀三郎の同上調書
一、同月二十一日附吉村伝之丞の同上調書
一、被告会社登記簿謄本ならび抄本
一、被告会社定款写
一、昭和二十四年一月十八日附大蔵事務官高橋胤二作成の被告会社の所得申告書謄本
一、同年二月十九日附大蔵事務官新井治次作成の同上謄本
一、同年一月十八日附福田九三男作成の答男書(被告会社第一、二期(中間、確定)の貸借対照表、納税申告書)
一、同日附同人作成の答申書(被告会社第一、二期(中間、確定)の決算報告書写)
一、昭和二十一年六月より同二十三年三月迄のルーズリーフ式元帳
一、ルーズリーフ綴
一、元帳(吉村伝之丞取扱)
一、昭和二十三年十一月十二日附古川喜哉作成の上申書(源泉徴収関係書)
一、同月十八日附福田九三男作成の上申書(同上)
一、同月二十七日附福田九三男、古川喜哉作成の上申書(同上)
一、同年十二月二日附小久保儀三郎作成の答申書(同上一覧表)
一、同二十四年一月十九日附福田九三男作成の答申書(同上一覧表)
一、個人別俸給一覧表その三、四、五(ノート式)
一、特別手当支給台帳(カード式)
一、俸給合計一覧表(ノート式)
一、昭和二十二年上半期賞与支給簿
一、同年上、下半期賞与支給一覧表
一、伝票(第十九号乃至第四十号)
弁護人は被告人は本件ほ脱の課税標準である利益の全額について認識していないし、吉村伝之丞の把握していたB資産についての認識がないからその限度でほ脱の責任はないと主張するが、被告人兼被告会社代表者は当法廷で「昭和二十一年春か夏頃私は被告会社の営業収益の内いわゆる出目、不合格品の売上額、法定価格超過額即闇値を別口即B資産とすることにし、当時その方針を吉村伝之丞、橋本庄右衛門、木村国治、大塚隆司に話して諒解を得た。そしてB資産の帳簿上の処理、現金の保管を福田九三男に命じた。昭和二十二年六、七月頃営業部の橋本が商品の仕入資金としてB資産の一部を福田に廻さずに持つていたので、私はB口のものは凡て福田に廻すよう言つた。私は被告会社の資金関係は営業資金に限らず、一切の関係は自ら大綱をつかんでいた。初めよりこのB資産は所得申告の際は除外する考えであつた。福田九三男より第一、二期事業年度の中間ならびに確定の所得申告を出す時大体の内容は報告を受けて承知していた」と供述し証人木村国治は当法廷で「昭和二十一年春頃小久保の発議で、被告会社に別口資産を作ることにした。それは被告会社は問屋営業を目的として居るが品物が払底して居たので、その傘下に生産工場を持たないと今後営業が円滑に出来ない為工場の建設資金を得る為でその資金は課税対象とならぬよう別口としこれには出目、員数外品の売上額、闇売額を充てることにし、その頃他の重役にも話した上、その取扱を福田九三男に命じた。被告会社の営業の方面を担当して居た吉村専務がB口資産を持つていたが、それも会社のものと思う」と供述し、証人吉村伝之丞は当法廷で「昭和二十二年八月頃より自分の手許にB勘定を作つたが、これは商品の闇売額で、営業資金に充てる為であつた。B口資産の仕訳は業務部でやつて居り、B勘定として自分の手許に来たものが若し自分の手許に来なかつたとすればそれは福田の手許に廻されるべきものであつた」と供述し、証人福田九三男は当法廷で、「被告会社監査役であつた木村国治から工場建設資金を捻出する為、課税対象にならぬ資産を作るべく別口経理を命ぜられたので、自分はそれに必要な伝票や帳簿を作り、B経理をするようになつた。B口資産となるものは出目員数外商品の売上額法定価格超過販売額であり、このことは小久保社長が業務部に指示したので、業務部で取引内容によつてB口伝票を作り、それを自分の手許に廻付して来た。B被告会社の第一、二期事業年度の所得申告や決算報告書は凡てA資産によつて作つたので、B資産は一切除外してあつた。その書類は小久保社長には見せなかつたが、それに記載した利益額税額は口頭で同人に報告した。自分の外吉村専務もB資産を持つていたが、それも自分と同じ性質のものと思う」と供述して居る。即ち小久保儀三郎は課税対象とならないB口資産を作り、これを被告会社の傘下工場の設備資金に充てることを計画し、そのB口資産となすべきものを出目製品、不合格品の販売価格、法定価格超過販売額と定めその仕訳を業務部に命じB口資産の処理を福田九三男になさしめることとし、被告会社の重役であつた木村国治、吉村伝之丞、橋本庄右衛門、大塚隆司等に諒解を求めてごれを実行に移したことが認められる。即ちB口資産は、初めより課税対象としない意図の下に仕訳されたものであるから、その凡てはB資産として課税対象外におかれる。従つてそのB資産が何人の許に蓄積されたか、如何に使われたか、数額が何程かについて被告人の所期と異なるところがあつても、右B口資産となつたものについてのほ脱犯の成立に影響するところはない。
弁護人は被告人会社のB資産を作るため別口の伝票、帳簿を作成したがその記載内容は正確であつたし、これ等を税務官吏に呈示しないのであるから法第四十八条の詐欺その他不正行為に該当しないと主張するが、同条の詐欺行為とは不正行為の例示であり、不正行為とは、ほ脱の目的を以つてなすところのほ脱を可能ならしめる一切の行為である。本件においては一般には秘匿しておき、所得申告に際しては計上しない意図の下にB伝票やB帳簿を作成し、所得申告に際して提出したる被告会社の決算報告書、貸借対照表にはその伝票や帳簿に記載した資産を計上しないのであるから、同条の不正行為として何等欠くるところがない。従つてその伝票、帳簿の記載内容が正確であり且これ等を税務官吏に呈示しないとの一事を以つて右一連の行為の不正行為たることを否定し得ない。否寧ろこれ等を呈示せず秘匿しておいたことが不正行為の一要素となるのである。
弁護人は本件では訴追前に修正申告をしたのだからほ脱は未遂に止まり、単なる不実申告であると主張する。申告納税制度の下では法所定の申告を為せば、その申告は法第二十五条による申告修正又は職権による更正の外は是正することは許されない。法第二十五条は「脱漏あることを発見した時」は修正申告をすべきものと定めて居るので、本件の如く脱税の意図の下に故らに脱漏せしめた時は同条による修正は許されないと解さねばならぬ。又職権による更正は法第二十九条と法第四十八条第三項の定めるところであり、両条の関係は必ずしも明確ではない。法第四十八条第三項は第一項の場合即ち「法人税を免れた場合」において課税標準の更正を為し、その税額の徴収を為すべきことを規定して居るが、ここに法人税を免れた場合とは原則としてほ脱犯として確定判決を受けた場合である。蓋し法第四十八条のほ脱は、ほ脱犯成立を指称するもので、それは判決による外確認出来ないのであつて、税務署長(法人税法施行規則第四十一条、国税犯則取締法第十二条の二参照)の認定はその嫌疑に止るからである。従つて税務署長が法第二十九条によつて更正した後において判決によりほ脱と確定すれば法第四十八条第三項によつて更に更正されなければならぬ(若しそうでないとすれば法第二十九条の更正額と法第四十八条による判決の認定額が異なる場合において、法第二十九条の再更正は法第三十一条によるべきところ同条は脱漏の場合に限られて居り、又更正に対する不服は法第三十六条第三十八条によるべきところ既に同条の期間を徒過して居る為めに為し得ないことになり、その是正は不能となる)即ち、ほ脱犯が成立する限りその課税標準の更正は法第四十八条第三項にのみよるべきである(この場合その決定に対する審査、訴願等はなし得ない)斯く解する時はほ脱犯が成立した時は法第四十三条の追徴税は徴収出来ないことになるが、同条の追徴税の如きは「法人税」となつていても実質は罰金科料と同一のものであるから法第四十八条の処罰を為す場合に法第四十三条の追徴金が徴収出来ないことは一事不再理の原則の趣旨にも適合し妥当というべきである。
弁護人はほ脱犯は目的犯であるが本件においてはほ脱は目的ではなく結果であるからほ脱犯とならないと主張するが、法第四十八条のほ脱犯が成立するためには脱税の目的で脱税の結果が生ずれば足るので、その目的は唯一のものであることを要しない。本件の別口資産は課税の対象としない意図の下に作られ、その所得申告に際してはこれを除外したのであるから、仮令その資産を工場建設資金に充てる意図があつたとしてもほ脱の目的があつたことは否定出来ない。
弁護人は法人税法所定の申告は現在ほとんど更正されて居る実情であり正当な申告は期待出来ないのだから本件行為は期待可能性のないものであつて犯罪とならないと主張する。期待可能性のない場合に犯罪の成立を否定すべしとの論は必ずしも確立されたとはいい得ないが、期待可能性なしとはその行為に出でないことを客観的、合理的に容認し得る場合をいうのである。証人大谷富次の供述によれば本件犯行当時法人税に関する申告がほとんど更正されていたことを認められるが、その更正された申告が凡て法第四十八条のほ脱犯を構成して居るとは断定出来ないのみならず、これら不当申告は本来納税義務者の正当申告が期待出来ない状態であつた為になされたものであると認めることが出来ない。本件においてもほ脱行為は被告会社の営業を隆盛ならしめるため、その傘下に生産工場を設けんとしてその工場建設資金の捻出をする為の行為であるから本来正当申告の期待は極めて可能であつたと言わねばならぬ。(法律の適用)
被告人の第一の不正の行為により法人税を免れた所為は各法人税法第四十八条に違反する行為であるが同法は元昭和二十二年法律第二十八号として制定同年四月一日より施行されたが同法第四十八条はその後同年法律第百四十二号で改正同年十二月一日より施行更に同二十三年法律第百七号で改正同年七月七日より施行されたところ法律第百四十二号は附則第十五条法律第百七号は附則第六十条により何れも改正前の違反行為には従前の法条を適用する旨の規定があるので第一の(一)の行為には法律第二十八号、(二)第一のの行為には法律第百四十二号第一の(三)の行為には法律第百七号を適用し被告会社については被告人と同一の法条ならび同法第五十一条を適用し被告人の第二の各所為は所得税法第六十九条第二項第三十八条第一項に違反する行為であるが右第六十九条第二項の源泉不徴収罪は昭和二十二年法律第百四十二号で追加制定、同年十二月一日より施行され同二十三年法律第百七号で改正同年七月七日施行されたところ法律第百七号附則第六十条により改正前の違反行為には従前の法条を適用する旨の規定があるので何れも法律第百四十二号を適用し被告会社については被告人と同一法条ならび同法第七十二条を適用する。
(刑の量定)
量刑について考察するに納税の義務は憲法第三十条により国民が厳粛に負うところのものであつてそれは国家財政収入の大きい部分を占めて居りこれなくしては国家の財政は維持出来ないのであるから国民としては光栄なる義務というべきである。法人税についてあるいは高率でありこれが強行は苛酷であるとの言を為すものもあるが終戦後の我国経済情勢を見るにインフレは悪性化の徴候次第に濃厚となり赤字公債によるを得ない状態にあつたので国家の財政収入は税収入に非ずんば対外借款による外はなかつた。然るに占領下の我国としては対外借款に依存し得なかつたので財政的に国家を崩壊より救う為には自らの肉を食する態の努力をしなければならなかつた、従つて税率の高低を論ずるより先に国家の存亡を真摯に考えねばならなかつた。かくして我々の国会は少額なる勤労者の所得からも所得税を源泉的に徴収すべしとなしたのである。被告人は国家の再建には生産の復興が第一であるため生産工場建設を為すべく企図したと供述して居るが被告人の供述の一部、証人木村国治の供述によれば販売業者としての被告会社の将来性を考え生産工場をその傘下に持つて自らの安全を図つたと見るべきである。このことは被告会社としては左程多額の負担とならない源泉徴収をしなかつたことからも首肯出来るのである。斯く自らの為に不正手段を用いて多額の脱税をして居りその責任は極めて重大であると言わねばならぬので、脱税によつて被告会社が蓄積したものが生産工場として現存することに眩惑されて脱税によつて蒙つた国家の損失を忘却することは出来ない。然しながら被告人は自己の当面の不生産的欲望を満足する為に脱税を敢行したのではなく自らの将来を考慮したとは言いながらこれを生産設備に注入し現に工場設備として存することはその刑を量定する上において考慮すべき重要なる点である。しかして税法は国家の財政収入を確保することを目的としその罰則は徴税の完遂を保障せんとするものである。依つてその刑罰としての罰金はその脱税額を基準として客観的に定められていることをも考慮に入れ(法人税総額は六千四百八十二万二千百九十七円三十銭で申告税額は千五百五万千七百二十円二十銭で脱税率は七十七%、所得税額は二百万五百六円で源泉不徴収税額は百二十六万三千六百十八円でその率は六十三%である。)又体刑については行為の意図など主観的方面をも考究し前示認定の諸般の事情を斟酌して量刑すべきものである。
依つて被告人については何れも所定刑中懲役刑を選択し刑法第四十八条第十条により第一の(三)の所為の罪に法定の加重をなした刑期範囲内において被告人を懲役一年に処し被告会社については法人税法第五十三条所得税法第七十四条に従つて各所為につき主文掲記の罰金刑を科すべきものとする。
訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第百八十二条に従つて被告人と被告会社の連帯負担とする。
検察官某関与